未来戦争

 ある引退した政治家と雑談した。私と同世代を生きてきた人なのでいろんな意味で共感が持てた。彼の話の中で一番驚いたのは「今の時点で核兵器の使用を考える国はないと思う」ということだ。考えてみれば今のネット社会で、もし核兵器を使用しようとすれば、即感知され報復攻撃を受ける。自国民を危険に晒してまでの使用は、流石の北朝鮮金正恩もその間のことはよくわかっていると思う。

 今後の国家間の戦争の武器は「インターネットを使ってのサイバー攻撃」「細菌戦争」になると思う。今年の4月アメリカのオイル輸送管のシステムがサイバー攻撃を受け石油会社がハッカーに巨額の解決金を支払ったと報道された。そのような例はあまり表に出ないが、日本でもあると聞く。

 サイバー攻撃に対処する部署が日本にあるのか。核やミサイル対策は防衛省が研究していると思うが、例えば原子力発電所のシステムに対する攻撃はどの部門が対応しているのか。まさか電力会社に責任を持たせていることはないと思うが、国民として監視する必要がある。

 昨秋中国の長江流域で長雨が大洪水を引き起こし、三峡ダムの崩壊が話題になった。もしダムが崩壊すれば5億人の生活基盤が失われると報道されていた。その時期中国が香港の完全支配を目論み言論の自由を奪い、その延長線で台湾への侵攻も話題になった。もしその事態になれば台湾は三峡ダムにミサイルを撃ち込めば良いとの話が一部であった。我々レベルでも考えられ得ることで、中国はそのミサイル攻撃に対処する技術を培っていると思う。インフラに対するサイバー攻撃が恐ろしい。

 今回の武漢発のコロナウイルスも深読みすれば、中国の世界に対する「細菌戦争」であったかもしれない。中国の感染者の数字が出てこないが、少なくとも現時点ではコロナを抑え込んでいるようだ。コロナワクチンは世界で「ファイザー」「モデルナ」「アストラゼネカ」などが発表され、その争奪戦が展開されているが、中国はその争奪戦には参加していない。自国開発のワクチンでコロナを抑え込んだのか。少なくとも武漢コロナに対する有効なワクチンを持っている。

もしこれが細菌戦争だとすれば「中国は13億人のワクチンを開発してのちにコロナ菌を世界にばら撒いた」と考えるのは、深読みすぎるか。しかし私のようなボケ老人でも考えることである。

 国家間の戦争が、「核戦争」から「サイバー戦争」「細菌戦争」に移行するとき、日本ではそれに対する部門を早急に作る必要がある。「デジタル省」も大切だがそれ以上の「司令塔」を作る必要がある。

神のハサミ

 神のハサミ

2020年のノーベル化学賞を受賞した「クリスパーキャス9」という技術の手法を、遺伝子工学の勉強している若き研究者から聞いた。

「クリスパー」とは30年前現九州大学教授石野良純氏が見つけた大腸菌のDNAに繰り返しのパターンを持つ塩基配列である。そのクリスパーの高精度で扱いやすい遺伝子改造技術「クリスパーキャス9」を確立したことで2020年度ノーベル化学賞アメリカとドイツの科学者が受賞した。

今年3月カズオ・イシグロ氏が日経新聞のインタビューで「クリスパーへの危機感」を述べておられたので、少し突っ込んで研究者に質問をした。

私は遺伝子操作は電子顕微鏡下ですると思っていたが、切断したい細胞に試薬をかけるだけだという。その方法が優れていて遺伝子操作がしやすくなったことで、今回のノーベル賞の受賞となった。「神のハサミ」といわれる。遺伝子研究者は自分の研究目的にあった試薬を設計し製薬会社に注文するという。その民間会社はアメリカの「クリスパー」や日本の「モダリス」などがある。因みにアメリカの「クリスパー」の株価は年初来80%値上がりしたという。

遺伝子組み換えの技術は医学と農産物の分野で一番利用されている。遺伝子組み換えで我々に馴染みのあるのはアメリカ産の「大豆」である。食品表示によく「遺伝子組み換えの大豆を使用していません」と表示されている。しかし、この技術応用の最大の目的は医学分野での応用である。遺伝子を組み替えることによって病気を治療できるのは素晴らしいことだと思うが、一つ間違えば人間の改造にもつながる。

2018年12月に中国人の科学者が「遺伝子操作ベビー」が生まれる可能性がある発表し世界に衝撃を与えた。特にキリスト圏の人々は衝撃を受けた。神の領域への冒涜であると非難している。この問題を先に紹介した研究者に聞くと「大学では年に一度倫理教育を受ける」という。ちょうど医者の「ヒポクラテスの誓い」のように遺伝子操作の研究者の倫理を絶えずチェックしている。

ノーベル文学賞受賞のカズオ・イシグロ氏はAIの発達よりもこの遺伝子組み替え問題の方が人類に大きな影響を与えると警告している。遺伝子組み換えで肉体的・知的能力を向上させた人は、その恩恵を受けない人に対して圧倒的な優位に立つ。階級格差が生じる危機があるという。

遺伝子組み替えの恩恵を受けることができるのは一部の金持ちのみである。格差・不平等のある社会は近世以前の社会である。今また、貴族と奴隷の社会になるのか。遺伝子組み換えは医学の発達とは裏腹に大きな問題を含んでいる。

クララとお日さま

クララとお日さま

 緊急事態宣言中に我々夫婦はともに84歳の誕生日を迎えた。コロナワクチンも80歳以上は優先的に接種してもらえ感謝をしている。今は我々の一世代前では考えられない長寿社会である。同世代の友人と話をすると決まって「この年まで長生きするとは思わなかった」という。

 誕生以来7回目の丑年には色々なことのケジメをつけるとかねがね心に決めていた。例えばこの「世相雑感の執筆」や、運転免許の返納、いろんな所属クラブの退会ほか諸々である。しかしなかなか予定通りことは進まない。老いを認めたくない心が「もう少し頑張っては」と悪魔の囁きをする。

 長生きしたため、一世代前の親の時代とは違った異次元の世界を今経験している。人類は歴史上で初めて異次元の人工知能の存在を知った。人工知能を持った手塚治虫の「アトム」を知った時には、ロボットは夢物語であり「アトム」は子供時代のアイドルであった。しかしアトムの世界が描かれた時代には想像もしない問題に今直面している。

20世紀半ば、アイザック・アシモフSF小説で、「ロボット工学三原則」(人間への安全性、命令への服従、自己防衛)を示された。その時にはロボット三原則が近未来での人工知能との関係の規範を作ったものと思った。しかし最近よく「シンギュラリティ」(技術的特異点)がAIの世界で取り上げられ、2045年にはAIが人間の存在そのものをも変えてしまうと予測されている。人間と人工頭脳との関係が逆転するかもしれない。

 2017年度ノーベル文学賞受賞作家カズオ・イシグロ氏の最新作「クララとお日さま」を読んだ。この小説は人間の子供の遊び相手として作られたAF(人工知能を持った友)が主人公である。街角の「ロボットショップ」のショーウインドーに展示されたロボット「クララ」が病弱な少女ジョジーに買われ、献身的に介護をし「お日さま」に願って少女ジョジーを救う。そして彼女が健康を回復して大学に進学した後、廃棄物処理場に捨てられる話である。しかしロボットのクララは最後まで主人公のジョジーの幸せを願い続ける。

 作者カズオ・イシグロ氏は、近未来に人間も遺伝子操作で肉体的にも知能的にも改造されると予測される時代に、献身的なロボット「クララ」を書くことで人間の「心」「魂」の所在を探し求めた。

 日経新聞のインタビューの中でイシグロ氏は「魂といわれるものはおそらく、その人を大切に思う周りの人々の感情の中にこそ宿っているのではないか」という。私は今まで愛・信仰・正義などを考えたが「魂」とはと突き詰めて考えたことがなかった。

私の魂は果たして何人の人の心の中にあるのであろうか。人生84年間の総決算を突きつけられたような気がする。

北里柴三郎とノーベル賞

北里柴三郎ノーベル賞

 1894年、香港で大流行をしていたペスト菌を発見し、その治療法を確立した北里柴三郎博士がなぜノーベル賞を受賞できなかったかを調べた。2007年1月号北海道立衛生研究所機関紙「しゃりばり」に掲載された北村浩一氏の論文にその答を見つけた。氏の論文を引用しながら北里柴三郎博士がノーベル賞を受賞できなかったかの経過を辿りたい。

 北里柴三郎氏は東大医学部卒業後、内務省衛生局の留学生としてドイツの「コッホ」の研究所に留学する。そして破傷風菌を発見「血清療法」という治療法を確立させた。氏は留学直前、東大医学部で緒方正規氏(東大医学部講師)から細菌の扱い方を学んでいた。この緒方氏が北里氏が留学したその年に「脚気菌」を発見したと発表した。

 北里博士はこの「脚気菌」についての研究を行い「脚気とは無関係である」という論文を発表した。師に楯突いたと学会では北里氏を「忘恩の輩」して非難した。この中には陸軍軍医総監の森鴎外氏も北里博士を激しく非難する論文を発表している。脚気ビタミンB1不足に起因すると発表した鈴木梅太郎氏をも散々非難した。その後も緒方正規氏が「脚気菌」説を続けたため、日清・日露戦争では脚気で3万人を超える兵士を死亡させた。

 この東大の学閥が1901年に創設された「ノーベル生理学・医学賞」の北里柴三郎氏の「生理・医学賞」の受賞を妨げた。そして「ペスト菌」発見の二番手のドイツのコッホの弟子のベーリングにその名誉を譲ってしまった。

 この学閥の弊害はここかしこに見られる。例えば「邪馬台国」の北九州説(東大系)と畿内説(京大系)が有名である。東大系の歴史学の大御所、白鳥庫吉(1865−1942)が明治43年「九州説」を唱えた。これに対して、京大の内藤湖南が「畿内説」を唱える。大御所に反する発表は今も厳としてご法度である。私はある講演会で若手の古墳研究者が、受講者の質問に苦笑いしながら言葉を濁したことを思い出す。

 日本の社会では派閥が横行する。学問の世界でも実業の世界でも派閥に属さない人は地位の確保が非常に困難である。

 それを嫌って優秀な人材が海外に流出してしまう。例えば北里氏が受賞できなかったノーベル生理・医学賞をその後受賞した日本人は、1987年利根川進氏(マサチューセッツ工科大)2012年山中伸弥氏(カルフォニア大)2015年大村友智氏(ドリュー大)は若い時の海外での研究成果である。嬉しいことに2016年大隅良典(東大)2018年本庶祐(京大)は日本での研究の成果である。

 昨年来の学術会議の議員任命のドタバタ劇を見ても悲しい習性が日本人にはあるように思う。

蜘蛛につかまった日々

 昨今「蔓延防止等重点措置」の発令で昨年春と同様、外出を控える日々が続く。カメラ同好会のメンバーも大きな写真機や三脚を持って電車に乗ると、何か白い目で見られるようで出かける機会が減ったと嘆いている。

 私も外出を自粛して自宅でパソコンの前に座って、ニュースを見、映画を見、調べ物をしたりしている。もし今の生活の中にコンピュータがなければと思い、私とコンピュータとの関わりを考えみた。コンピュータが一般人に使われ出したのは1989年にwww(world.wide.web)が始まってからだ。当初は研究者が中心で使っていたが、その後進化して一般の我々でも使えるようになった。Webは蜘蛛の巣のことだ。

 一般人に普及し出したのはやはり携帯電話の普及と大いに関係があるようだ。今では電車に乗って前に座っている人の六人中五人はスマホを見ている。考えれば少し異様な情景だと思う。落語家の桂文珍師匠が噺の「まくら」で「何かみんな位牌を拝んでいるようだ」と話していますが、言われて見ればその通りだ。

 しかし後期高齢者の隠居さんには非常にボケ防止になる。私はパソコンとタブレットスマホを持ち、ネットを通じて全て同期させている。どの装置からでもネットに入り作業を続けることができ重宝している。

 例えばアマゾンで電子版小説を購入して三箇所に配信すると電車の中や寝床ではスマホで、デスクではパソコンで、ソファーではタブレットでと場所に応じて使い分けて読むことができ便利だ。またわからないことがあれば即スマホで調べる。「世相雑感」の原稿もコンピュータがなければ今までは続けれなかったと思う。

 私が今一番利用しているのは趣味の「写真」の加工と保存だ。写真の保存は昔はアルバムにしていたが、今は全てパソコンの中にある。日付でも場所でも即検索して目的の一枚を即取り出すことができる。

 往還のメールも全てパソコンに保存している。「キーワード」を入れて検索すれば、何年も前のメールを即時に捜し出すことができる。

 昭和12年生まれの私がパソコンをある程度使えるようになったのは、1983年にIBM大阪支店長に「パソコンを使うのであれば絶対に説明書を読んではいけません」と言われたおかげである。まさしく「習うより慣れよ」の世界だ。もう一つ必要なものがある。困ったときに助けてくれる人が身近にいることである。「ワイヤーマン」というらしい。

 おかげさまで「まん延法」で自粛の毎日でも退屈せずにパソコンで遊び、ネットを使って友達と情報交換をし、少し「株」で損をして日々暮らしている。

ピンクのマスク

 コロナ対策で素晴らしい成果をあげ、世界から賞賛されている台湾のオードリー・タン氏の「デジタルとAIの未来を語る」の本を読んだ。タン氏は台湾のデジタル省の主要メンバーである。

 その著書の中で紹介された「ピンクのマスク」の話を紹介したい。「自分の息子がピンクのマスクをしていたら、学校で笑われて恥ずかしい思いをした」という母親の悩みが新型コロナウイルス対策のホットラインに投稿された。それに対して中央感染症センターの指揮官が翌日の記者会見で全員ピンクのマスクをして「ピンクは良い色ですよ」と報道陣に語りかけ、陳時中指揮官は「私は小さな頃、ピンクパンサーのアニメが大好きだったよ」と付け加えた。

 その結果、多くの台湾の企業や個人がロゴやプロフィールの背景をピンクに塗り替えて政府を支持した。これにより誰もがピンクのマスクを受け入れるようになったという素晴らしい話である。

 オードリー・タン氏は「台湾には寛容とインクルージョン(包括)精神」があります」と言っておられる。同じ隣国の韓国と比べるときその違いは歴然とする。韓国の文化の根底には「怨」しかないとよくいわれる。韓国の歴代大統領が1〜2の人を除いて全て逮捕、または自殺する国は異常としか言いようがない。台湾と韓国の違いを検証することで日本の文化を再考察するのも必要だと思う。

 日本には「ピンクのマスク」をして記者会見に臨むような政治家はいるのか。どこかの知事のように上から目線で「三密」や「5つの小」をボードにかかげて話す姿には、パフォーマンスばかり目立ち、国民への「愛」は感じられない。コロナに取り組み奮闘している吉村大阪府知事には、同じ飲食店の時短要請にも「コロナと経済」とのバランスを考えた社会の弱者に対する思いやりが、顔に立居振る舞いに滲み出ている。それは吉村知事の公僕としての立ち位置がしっかりしているからだと思う。

 「霞ヶ関文化」と「商人の街大阪」の違いかもしれない。昭和3年大阪城天守閣再建」の募金で目標額150万円が半年足らずで目標を達成した話。今回のコロナで「医療従事者への感謝の募金」が3日で目標に達成した話。「医療現場でビニールの防護服が不足 ビニールレインコート」が3日で10万枚集まった話。これらは「台湾のピンクのマスク」に相通じる心がある

 何か大阪人には台湾人と相通ずる心根がある。霞ヶ関の政治家や役人の心はどこの国に似ているのかな。

付記:2007年にカナダのハイスクールで「ピンクのシャツを着た子に対するイジメ」を受けて巻き起こった「いじめ反対運動」が今回の台湾の当事者の対応の根底にあったのかどうかはわからない。

ねずみ一匹5銭

 日曜日の朝NHKの対談番組で白鴎大学感染症学専門の岡田晴恵教授から、「明治時代、ペスト感染予防対策でネズミを買い上げた」という話を聞いた。私も大叔母から幼稚園の頃聞いた覚えがある。

 今回のコロナ騒ぎで、カミュ著「ペスト」を読んだ人も多い。ペストはヨーロッパの中世で何度も大流行し、人口の半分をも死に追いやり文化文明にも大きな影を落とした。このペストの病原菌を発見し、感染対策の方策を確立したのは北里柴三郎博士である。

 1894年、100年以上姿を消していたペストが中国南部で流行が始まり香港に蔓延した。日本政府はこのまま放置して、日本に上陸すれば大変だと考え、ペストの原因究明に北里博士一行を1894年6月7日に香港に派遣した。そして「ペストという見えざる脅威を目にみえる病原菌に変えた」といわれる病原菌を発見した。1894年6月14日である。この日に世界の運命が変わったといわれている。病原菌がわかったことで推定される感染経路が次々にわかり「家屋等の消毒薬やクマネズミの駆除の徹底などの公衆衛生対策」が功を奏して香港のコロナが終焉した。

ところが5年後の1899年にペスト菌が神戸に侵入大阪から東京に広がった。この危機に北里博士が陣頭指揮して、上下水道の整備、患者の隔離、地区の消毒を徹底させて日本のペストが終息した。

この時、東京市は1900年1月15日に「ペスト菌を媒介する家ネズミ・ドブネズミを一匹5銭で買い上げる」という通達を出した。当時の大海老二匹入りの上天丼が、ちょうど5銭の時代だったので「ネズミを捕って天丼を食おう!」という流行語が生まれたといわれている。交番にはネズミを持ってくる人の行列ができ、警察本来の仕事ができなくなったとか、会社をやめてネズミとりに専念して1ヶ月に2400匹捕獲120円を稼いだ人もいた。今の価値に算すると月240万円である。夏目漱石の「吾輩は猫である」にもこの騒ぎが書かれているという。

調べるとまだ面白い話もあった。1901年東京市は「屋内を除くほか、はだしでの歩行を禁ずる」とのお達しがあり、「ペストが流行れば、下駄屋が儲かる」との流行り言葉もあったという。

 今回のコロナの「三密」とか「マスク」「緊急事態宣言」などのテレビや新聞で騒がれているが、明治時代は現代の我々から見ると少し心にゆとりがあったのかなと思う。今ひとつ、なぜ北里柴三郎博士が「ノーベル賞」を受賞しなかったのか疑問に思う。少し勉強して報告します。